今日の輪・適当ブログ

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幼稚な母と袋小路の息子 「残酷な神が支配する」を読んで

こんばんは、のわです。

 

2019年、少女漫画界の重鎮・萩尾望都先生のデビュー50周年記念で作品原画展の開催が発表されたのは、私にとっては記憶に新しいです。

ポーの一族」と「トーマの心臓」の原画を目当てにお邪魔して、その際に物販コーナーでなんとなく気になって文庫を全巻購入したもののしばらくそのままにしていた作品、「残酷な神が支配する」。つい最近になって読み始めました。

この「残酷な神が支配する」、作品の紹介で「性的虐待が~……」的な文章を見ていたので、(ハードな物語なんだろうな……)と身構えていましたが、予想以上にハードでたまらなくなってきたので感想をこちらにまとめて落ち着こうと思います。

まだ文庫版8巻までしか読めていませんし(文庫版は全10巻)、ジェルミとサンドラについてうっすら書き記す程度ですが、よかったらお付き合いください。

 

 

 

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物語はお葬式のシーンから始まります。とある再婚同士の夫婦が不幸な自動車事故に遭い、夫のグレッグは重体(のちに死亡)、妻のサンドラがこの時点で残念ながら死亡。涙を流す男の子。彼は亡くなったサンドラの息子ジェルミ、傍にいるのはグレッグの息子イアン。二人は義兄弟です。

ジェルミが呟く「あいつが死ぬはずだったのに……なんであいつの車に……サンドラ……」

イアンは義理の弟であるジェルミの言葉を怪しく思い、この自動車事故はジェルミによって故意に仕組まれたものではないのか?と疑うようになり……。

その裏にはイアンが知らなかった実父グレッグの本性と、ジェルミの苦悩と屈辱の日々があった……。

 おおまかな出だしはこのような感じです。

 

その後、物語はサンドラとグレッグの出会い、ジェルミとサンドラの親子関係、ジェルミの友人関係、ジェルミとグレッグの関わりについて触れられていくわけですが、要するに鬼畜グレッグがジェルミを脅して性的関係を強要していたため、辛抱ならなくなったジェルミがとうとう行動を起こして冒頭のお葬式のシーンに繋がるわけです。最低ですね。グレッグが。

そしてジェルミの人生が一変し、他の登場人物も巻き込んでジェルミとイアンの関係がこじれ、薬物中毒や売春などの重たい問題を取り扱ったストーリーになっていきます。つらい……。

 

グレッグは「サンドラと結婚する。ただしジェルミが自分と関係を持つことが条件」という脅し文句でジェルミに性暴力を振るいました。なぜジェルミはそんな脅し文句に屈してしまったのか。ジェルミにとって何よりも母親であるサンドラの幸せが大事だったからなのですが、これはおかしいですよね。子供がこんな仕打ちを受けてまで母親の幸せを願わなければならないとしたらこの世は地獄ですよ。ジェルミはそんな脅しは突っぱねて逃げるべきだったのですが、サンドラの弱さがジェルミの退路を断ちました。そもそも子供の心を無理矢理抑えつけて関係を迫るグレッグが直接の加害者であり一番の悪者であることは間違いないのですが、ジェルミが周りに助けを求められずにグレッグを増長させた原因はまさしくサンドラ本人の幼稚さにあったのでしょう……。

幼稚というのは言い過ぎかもしれませんが、事実、サンドラは体も心も弱い人間でした。ジェルミが本当のことを言えなかったのは「グレッグとの関係をサンドラが知ったら、グレッグを強く愛するサンドラはショックで心臓に負荷がかかって死んでしまう」という懸念があったからです。母親が弱かったから、息子がどうにか立ち回らざるを得なかった。健全な親子関係が結ばれていたなら「親であるサンドラが子であるジェルミを何が何でも守る」という方向に持って行けるはずですが、この親子はまるっきり逆で、頼りなく弱い母親を目の当たりにして育った息子の価値観は既に狂っています。「子が親を何が何でも守らなければいけないという価値観」を緩やかに、そして無自覚に子(ジェルミ)に植え付けた親(サンドラ)の罪は重いんじゃないでしょうか。本当にサンドラは天然無自覚なのがやるせないです。

序盤のサンドラとグレッグの結婚直前のシーン、グレッグの本性を垣間見たジェルミが「グレッグと結婚はよしてくれ、あいつは誠実じゃない」とサンドラに訴えますがサンドラは「どうしてそう思ったの?何か言われたの?」というようにジェルミに寄り添うのではなく「ケンカしたの?なら彼に謝って!」とジェルミを責め、「幸せになれると思ったのに」と泣き崩れてその場から逃げ出し、挙句の果てにやけ酒したのかアルコール中毒で倒れます。ジェルミは「自分がサンドラを追い詰めてしまった!」と自責しますが、サンドラがメンヘラすぎるだけだからジェルミがそこまで気にする必要は無いと思います。また、ジェルミが十歳の頃、彼女は前の夫(ジェルミの実父)を亡くし、その後良い関係だった男性に捨てられたショックで手首を切ってジェルミ本人にその傷口を見せた過去があります。ヤバイ。ジェルミに「母さん」ではなく「サンドラ」と呼ばせているのがサンドラ本人の希望なのもヤバイし、グレッグにひどく依存し彼のおかしいところに目を向けず、ジェルミにも依存し少しでも自分から離れそうになると不安オーラ全開で縛り付けて泣き落としにかかるのもヤバイです。繰り返しますが全て天然無自覚です。たちが悪い……!あと、どこのシーンだったのか思い出せないのですが、前の夫を亡くしたショックでサンドラがふさぎこむ描写があったと思います。そのときに自分一人だけベッドに入り、傍らにまだ幼いジェルミを寄り添わせて「私を不安にさせないで」的な台詞を言っていたような……。これが日常茶飯事だったらジェルミの感覚は狂うだろうし、グレッグのような悪人がサンドラを盾にジェルミに迫ったのはまさしく効果的でしかなかったわけです。最も悪い人間はグレッグですが、サンドラもあまりにも母親としては幼いため、そこをグレッグに利用されたのは彼女の落ち度です。ジェルミは何も悪くないです。

 

 ところで、恋愛をして、息子とも恋人のようにベッタリで子供っぽいところがある母親と言えば、「トーマの心臓」に登場するエーリクの母親であるマリエを思い出します。でもこの親子については、エーリクはマリエからハラスメントを受けていた印象がないこと、最終的にエーリクが親離れすることから、ジェルミとサンドラほど見ていて不安になる関係性ではなかったと思います。

8巻現在、ジェルミに一番近しいのはイアンで、サンドラは既に故人ですが、まだジェルミの心の中にはサンドラがいる描写が読み取れます。今のジェルミはサンドラをどう思っているのかきちんとは分かりませんが、どうか彼自身の人生を幸福に生きてほしいと願うばかりです。ジェルミが健全にサンドラと向き合い、グレッグの呪縛からも逃れられることを祈ります。マジでグレッグは許さんからな……。

近いうちに最終巻まで読み切りたいです。

 

 

おしまい

 

 

2021/1/5【追記】

ちょっと前に最終巻まで読み終えました。涙ボロボロ悲しい!って感じではないのですがなんだか複雑な……「こうなるしかなかったのかな……」みたいなラストでした。重いお話ですよね。でも読み応えがある良作品でした。